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お知らせ

国立病院機構仙台西多賀病院 脊椎内視鏡センター長
山屋 誠司
国立病院機構仙台西多賀病院脊椎内視鏡センター長の山屋誠司先生には西多賀病院における「顕微鏡下片開き式頸椎椎弓形成術」導入の経緯と、その強みを中心にお話をいただきました。医療関係者向けの内容でしたが、一般の視聴者も意識されながら、かみくだいたかたちで、お話ししてくださり、非常にわかりやすい講演となりました。(頚椎椎弓形成術を語る会代表世話人:亀岡市立病院脊椎センター 成田渉)
国立病院機構仙台西多賀病院の山屋です。第1回頚椎椎弓形成術を語る会の開催、誠におめでとうございます。
本日は医師・医療関係者を対象にしたセミナーですが、代表世話人を務められた成田渉先生の英断で、のちほどセミナーの内容が先生のYouTubeチャンネルで公開されるとのことで、できるだけ一般の方にもわかりやすい言葉でお話ししたいと思います。
それにしても成田先生の新しい試みと情熱が詰まった企画に大変感銘致しました。先生のYouTubeチャンネル取材と同時進行で進められ、プロの進行役の方と撮影スタッフも入るという企画です。司会を務められた真由美さんは成田先生が執刀した元患者さんということに、びっくりしました。
後々、一般公開となるとあって、参加者もいつもと違う、イイ意味での緊張感があります。成田先生は「腹を括(くく)ってSNSやYouTubeチャンネルのコメント欄を閉じない」という、オープンな姿勢を貫かれています。
地域医療の第一線から、さまざまな新しいことや機会を生み出されてきた成田先生の覚悟に感銘すら覚えます。

実は成田先生と私は自治医科大学の同級生でして、卒業後も公私ともに交流を深めてきました。というより、いろいろとアドバイスをもらったり、術式を指導していただいたり、ギブアンドテイクというより、ギブアンドギブの関係といったほうがいいかと思います。


本日、私が紹介するのは「顕微鏡下の片開き式頸椎椎弓形成術(open-door laminoplasty)」です。片開き式頸椎椎弓形成術は頸椎脊柱管狭窄症(ようついせきちゅうかんきょうさくしょう)・頸椎後縦靭帯骨化症(けいついこうじゅうじんたいこっかしょう=OPLL)などの脊髄圧迫疾患に対して行われる脊柱管拡大術の一種です。
具体的には脊髄を直接除圧するのではなく、椎弓を「片側から開扉」して、脊柱管全体の容積を拡大することで神経への圧迫を軽減します。
医師となって以来、治療にあたって思うことは、いかに患者さんの体の負担を軽減するかでした。
当時、患者さんから、よくいわれたのは「背骨の手術は絶対イヤ」ということでした。なぜかというと、大きくメスを入れられるからです。「背中の痛みがつらく、歩けなくなるのではないか」と切羽詰まっているのですが、それでも「手術は怖い」と訴えられる方が多かった。
そのころから体の負担の少ない手術を取り入れることで地域医療に貢献したいという思いが強くなりました。
2011年3月11日、東日本大震災がやって来ました。ちょうど東北大学医学部整形外科の医局におり、激しい揺れで机が倒れるのを見て、ただごとではないと感じました。皆さま、ご存知のように実際、多くの方が亡くなられました。

震災後は改めて自分に向き合う時間になりました。「本当にやりたいことは何だろうか」と考えたとき、患者さんのために低侵襲手術や内視鏡手術をやりたいという初心が蘇りました。
内視鏡手術は一人で執刀できるうえ、短時間、しかも低侵襲。東北大学名誉教授の国分正一先生が提唱された「東北大学脊椎手術の5つの基本思想」のひとつである「患者さんの体の負担の少ない手術」にも合致していました。

ちょうどそのころ、成田先生から「京都では顕微鏡手術が導入されている。東北ではどうか」といわれ、大きな刺激を受けました。その後、日本脊椎脊髄病学会クリニカル・フェローとして和歌山県立医科大学と徳島大学で、脊椎内視鏡手術の研さん・研究を進めました。国内留学を経て東北に戻り、2018年、仙台西多賀病院に脊椎内視鏡センターをつくることができました。私が初代のセンター長です。
内視鏡は、もともと東北大学の関係病院では導入は積極的ではなかった。ただ、「患者さんのために、できることはやらなくては」という思いで開設しました。その思いは今日まで変わりません。
成田先生も同じ思いだと思います。MISTにしても、本日の「片開き式頸椎椎弓形成術」にしても積極的に展開されてこられた背景には、その思いがあったと断言できます。そして、先生は格段に実行力がある。それだけ周りに実力が認められている先生ですから。

内視鏡センターという名前ではありますが、もちろん内視鏡手術の適用外のケースは通常の外科手術で行っています。たとえば、皆さんもご存知だと思いますが、頸椎の後縦靭帯骨化症、特に連続型は、さすがに内視鏡適用外です。
内視鏡適用外のケースにも対応するため、COVID-19の緊急事態宣言の中、成田先生とのつながりを生かし、顕微鏡下の椎弓形成術をライブ配信で勉強するなどして研究を進めました。
その結果、片開き式頸椎椎弓形成術のほうが両開き式よりも安定性が高く、筋損傷も少ないなどメリットが多いことがわかり、これを導入しようと院内で提案しました。
ところが、反対が多く、かなり苦労しました。椎弓両開きの黒川法を開発された東京大学の黒川高秀先生が東北大学に来られて黒川法を教えてくださったという背景もあり、東北大学では、ずっと両開きでやってきました。

ただ臨床成績でもガイドラインでも両開きも片開きも、さほど差はありません。成田先生が顕微鏡下のOPERAシステムを使えば、片開き椎間形成術には次のような大きなメリットがあると教えてくださいました。

顕微鏡下椎弓形成術では椎弓内板削除、黄色靭帯除去、神経減圧操作など、きわめて繊細な操作が求められます。OPERAシステム(顕微鏡下での視野確保と術野安定化を両立させるための多軸可動システム)を使うことで、手術の姿勢を崩さずに微調整して、骨削除角度をリアルタイムで最適化することができますから、開扉時の神経・硬膜損傷、過度な骨切除を最小限に留めることが可能になりました。
顕微鏡or外視鏡下で行うOPERA 片開き式椎弓形成術は3cmの皮膚切開で執刀できるように開発された画期的なプレートと術式デバイスです。成田先生は1件30分台で1日5件も執刀するといいますから驚愕です。

顕微鏡の高倍率・立体視によって脊髄や神経根、硬膜の境界が明確に視認できることから、合併症リスクの低減も実現しました。実際、OPERAシステムの導入によって術中神経合併症(硬膜損傷・出血・後遺神経痛)の発生率が有意に減少したという報告が複数あります。
※編注:この項のエビデンスは、学会抄録・論文等の出典確認後に正式追記します。
拡大視野で微小血管を確認しながら凝固止血ができることから、術中出血量が顕著に減る傾向があります。これは術後腫脹(浮腫)や疼痛の軽減にも寄与します。
第4に神経損傷が少なく、筋を温存できるため、術後の良好な神経回復が見込めます。
筋萎縮が少なく、頸椎可動域の保持率が高いので、QOL(生活の質)の改善にも、よりスピーディーに寄与する傾向があります。
説得力十分で、私は「なんとしても導入しよう」と決意し、院内の先生方を説得し、了解をいただいたうえで導入に至りました。
導入には半年かかりました。当院の場合、片開き式の導入は相当ハードなものになりました。
導入の過程で、成田先生は何回も足を運んでくださり、ことこまかに指導してくださいました。副次効果としては患者さんと助手、看護師もモニターを見ながら手術ができますから、情報の共有が簡単に実現できたことです。教育的な効果も見込めます。顕微鏡画像をモニターに投影できるので、手術教育にも最適。動画で手術記録を残せるので、症例検討にも活用できます。
なにより、手術後の痛みが少ないので、患者さんには大いに喜んでいただいています。地域医療には、こうした低侵襲手術が必要だなと改めて実感しました。
さきほど見せていただいた、頚椎REALSPINEを用いたハンズオンは、すごかった。筋肉、海綿骨、硬膜外静脈からの出血が再現できているだけでなく、黄色靱帯の質感と繊維の構成や厚さまで本物のようで驚きます。プレート、スクリューを設置する一連のトレーニングがリアルに体験できる意味で大変に有用です。
そして、個人的にこのモデルで1番驚いたのは硬膜切開後の髄液の流出が再現されていることです。頸椎高位で硬膜切開するのは腫瘍の手術でもない限り、一般の脊椎外科はなかなか経験できません。硬膜を切開した瞬間に髄液が勢いよく噴出する様(さま)は、本当にトレーニングモデルの進化を感じました。硬膜縫合トレーニングもリアルにできるという意味では大変意義が大きい。カダバーでは髄液がでながら硬膜縫合することはできません。
この後、山根賢太郎先生の特別講演「外視鏡を用いた最小侵襲頸椎椎弓形成術(Ex-LAP)・ 学閥を超えた技術交流」が予定されています。成田先生の熱い想いと技術を外視鏡手術に発展させ、さらに適応を拡大する山根先生の丁寧な仕事と想いが感じられることと思います。

顕微鏡が外視鏡に代わり、内視鏡手術と外視鏡手術が全ての脊椎手術のスタンダードになる未来がすぐそこに来ています。
今、アジアでホットなのが、UBE(片側両ポータル内視鏡手術)で行う内視鏡下片開き椎弓形成術です。外視鏡下片開き式椎弓形成とUBEでの内視鏡下片開き式椎弓形成術、近い将来、比較試験が行われるくらいに、技術が執刀医の間に安全・確実に普及することを心から願っています。
学閥を超えた交流と企画、そしてモデルの進化によって、新時代には「神の手」といわれる、卓越した個人の技術が必ず一般化すると信じております。
以上で私のスピーチを終わります。成田先生、ご列席の先生方、スタッフの皆さんに心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
-地域医療の未来を拓く-より(協力 フォルテック株式会社)

成田渉・患者様に役立つ情報を発信!/頸椎椎弓形成術を語る会…
[全国の脊椎外科医を集め、徹底討論する]代表世話人:成田渉(なりた わたる)各地で手術執刀・指導・技術開発を行なっている。国内外で講演やシンポジウムを多数行っており、日本トップの実績である約300件/年の頸椎手術を施行している。2026年最小侵襲脊椎治療学会の会長を務める。